学部での研究(2008-2009)

宮城県金華山島に棲息するニホンジカ(Cervus nippon)を対象に、以下の調査を行いました。

 

①行動時間配分、採食や反芻の回数と速度は個体や季節によってどの程度異なるのか? 

ニホンジカには、繁殖期(10月)に、なわばりを持てる雄(なわばり雄)と持てない雄(非なわばり雄)とがいます。なわばり雄は、可能な限り多くの雌をなわばり内にとどめて交尾を行います。一度の繁殖期で残せるこどもの数(繁殖成功【reproductive success】)を増やすためです。そのためには、雌をめぐって他のなわばり雄と闘争したり、非なわばり雄が自分のなわばりに侵入して目を盗んでメスと交尾しないように見張ったりと、なわばりとその中にいるメスを防衛する必要があります。さらに、雌の発情期間はわずか24時間ほどで、なわばり内の雌の発情の有無を頻繁に確認して、発情メスであればすぐに交尾を行う必要があります。

 

このような事情により、繁殖期の雄は大変忙しく、約1カ月の間、ほとんど飲まず食わずで以上のような行動をとります。そのため、繁殖期が終わる頃には、なわばり雄の体重は激減してしまいます。繁殖期後にはやがて冬が訪れますが、春や夏と比べて食物が少なく、寒冷で、特に脂肪の少なくなったなわばり雄にとっては生存するのに厳しい時季です。彼らは、冬が来る前に食物を多く摂取して、体重を増加させているのでしょうか?実際に観察してみると、体重を回復するために懸命に少ない食物を得ようとはせず、なぜかなわばりオスはじっとしていることが多いのです。なぜでしょうか?飼育下の研究で、低温の環境では、代謝を低下させてエネルギーを節約することが明らかにされています。つまり動き回って餌を多く得ることよりも、極力動かないで、エネルギーを使わない戦略をとっていると考えられます。

 

そこで、

(1)各個体は一日のうちにどのような行動をどれだけの時間費やしているのか?

(2)各個体は何をどのくらいの速さで摂取・吸収しているのか?

(3)以上2点に関し、季節や個体によってどの程度異なるのか?

を明らかにすることを目的とし、調査を行いました。

 

②授乳行動、特に他仔授乳の頻度と個体間関係及びその機能

①の観察の途中で、実母以外のメスから乳を飲む行動が確認されました(他仔授乳,allosucking)。この行動は哺乳類の多くの種で報告されており、仮説もいくつか挙げられています。

 

そこで

(1)他仔授乳は全授乳行動のうちどの程度の割合で起こるのか?その頻度は年によって異なるのか?

(2)ミルクを与えるメスと受け取る仔の血縁関係の有無は?

(3)なぜ他仔授乳は起きるのか、その進化的要因は?

を明らかにすることを目的とし、調査を行いました。

 

以上の調査の結果と議論を卒業論文としてまとめました。

 

本島の麻布大学をはじめとするシカ研究グループの方々には、個体識別の方法など調査に関わる多くのことを教えて頂き、また調査以外でも大変お世話になりました。 皆様のお力なしでは、卒業研究を行うことはできませんでした。本当に感謝しております。

 

修士・博士課程での研究(2010-)

群れを形成する動物では高度なコミュニケーション能力が要求されます。ドール(Cuon alpinus)はパックと呼ばれる群れを形成し、共同で育児や狩りを行います。彼らの棲息環境はしばしば視界が不良で、音声やにおいのコミュニケーションが特に重要である場合が多いと考えられます。事実、ドールの野生個体および飼育個体は様々な文脈で色々な音声を発することが知られています。飼育下では、音声レパートリーの報告や、互いに独立な低音成分と高音成分を同時に発する音声が個体間の識別に役立っている可能性を示唆する報告があります。野外では、音声の擬音の記述と簡単な推測にとどまっており、行動と音声の詳細な分析はなされていません。

 

そこで、ドールのコミュニケーション、特に音声行動に関して、

(1)ドールには何種類の鳴き声があるのか?

(2)それぞれの鳴き声にはどのような機能(意味)があるのか?

を詳細に明らかにすることを目的とし、以下の場所で調査を行っています。

 

動物園

・上野動物園(東京都)

・ズーラシア(神奈川県)

・アリグナル・アンナ動物園(Arignar Anna Zoological Park,インド)

・シンガポール動物園(シンガポール)

 

その他の視察地:ハウレッツ動物園(イギリス)、コルマーデン動物園(スウェーデン)、オート・トゥーシュ動物園(フランス) 

 

野外

ムドゥマライ国立公園(鳥獣保護区、トラ保護区)(Mudumalai National Park/Wildlife Sanctuary or Tiger Reserve, インド)

最終更新日:201519